特集荻野恭子さんの世界の発酵食
50カ国以上の家庭料理を食べ歩き、研究を重ねる荻野恭子さんに、世界の発酵食について伺います。第2回はトルコの発酵調味料「サルチャ」を使ったペースト「チェメン」をご紹介します。
荻野恭子さん 料理研究家。サロン・ド・キュイジーヌ主宰。1974年よりユーラシアをメインに50カ国以上を訪れ、現地の家庭で料理を習い、食文化の研究を続ける。
発酵させたトマトの甘みが凝縮した「サルチャ」は、四季を通じてトルコ料理に使います。前回は、煮込み料理の隠し味としての使い方をご紹介しましたが、火を通さずにそのまま使う方法もあります。
トルコ料理は多彩な前菜(メゼ)が有名ですが、「サルチャ」は、メゼのディップの材料としても。夏にはフレッシュなトマトやハーブ、ひよこ豆などと合わせますが、冬にはフレッシュではなく、くるみとドライハーブを合わせ、唐辛子とにんにくを効かせて辛いペーストにし、家庭の保存食に。パンにつけていただきます。
「チェメン」と呼ばれるこのペーストは、宮廷料理がルーツです。トルコは、オスマントルコ帝国のスルタンの時代に世界を制覇しましたが、このスルタンが大変な食いしん坊で、行く先々でおいしいものを持ち帰り、自国に取り入れたという逸話が残っています。
トプカプ宮殿の料理人たちは、王の舌を満足させるべく様々な料理を再現したり、生み出したりしましたが、小麦をはじめとする多くの農産物の原産国でもあり、食材が豊かなトルコだからこそできたこと。トルコ料理がのちに「世界三大料理」と言われるようになった所以でしょう。というわけで、トルコの家庭料理は、帝国崩壊後に全土に散った、宮廷料理人の料理がルーツなのです。
今回紹介する「チェメン」は、トルコの家庭にホームステイしていた時に教わった思い出の味。今や家庭料理の定番ですが、宮廷料理のレストランでもおなじみなんです。唐辛子を加えた辛いディップは、体を温め、寒い時期の保存食に。パンに塗るのがおすすめです。
(作りやすい分量)
くるみはフライパンで香ばしく炒って砕く。にんにく、タイムはみじん切りにする。
すべての材料をフードプロセッサーまたはすり鉢でよく混ぜ合わせる。
サルチャのつくり方はこちら
*煮沸消毒したビンなどに詰め、冷蔵庫で6カ月ほど保存可。
次回は「達人に聞くしょうゆもろみ使いこなし術」をお届けします。
文/𠮷田佳代 写真/竹内章雄
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