特集舘博先生の発酵の科学

おいしさをつくる発酵のドラマ[第2回]

しょうゆもろみとは、しょうゆづくりで発酵・熟成段階にあるもの。そこから原料の固形分を分離させたものが、私たちの食生活に欠かせないしょうゆです。
しょうゆもろみの発酵をつかさどるのは多くの微生物たち。
そのご機嫌を見きわめ、よいもろみを育ててこそ、おいしいしょうゆができるのです。

 

 

舘博先生
東京農業大学教授。しょうゆの研究一筋に40年余という自他ともに認めるしょうゆ博士。品質向上と啓発への活動が認められ、2010年「醤油功労賞(日本醤油協会)」受賞。

もろみの中の微生物は ドラマのように入れ替わる

 しょうゆをつくる微生物たちは、初めから最後まで同じものがはたらいているわけではありません。もろみの中の食塩やpH、アルコールに応じて種類が入れ替わっているのです。そした微生物の消長を「ミクロフローラ」といいます。

 前回お話ししましたように、しょうゆづくりではまず麹菌を大量に繁殖させてしょうゆ麹をつくり、食塩水に仕込みます。それがしょうゆもろみです。

出典:ふでばこ37号(白鳳堂刊)

 もろみの中には初めのうち、麹菌と、麹菌が生成してあった酵素がたくさん存在しますが、麹菌は次第に食塩の浸透圧によって死んでしまいます。その間、酵素の分解作用によりブドウ糖やオリゴ糖が生成され、次にはそれを元にして食塩につよい乳酸菌が増えはじめます。

ところが、乳酸菌が増える=pHが下がると乳酸菌自身が生きられなくなって減り、今度は主発酵酵母がアルコール分解をはじめて増殖します。しかしその酵母も自ら生成したアルコールに耐えられなくなって徐々に死滅。それと入れ替わるように最後は熟成酵母が増えてゆくのです。

発酵調味料であるがゆえの 複雑なおいしさ

このようにもろみの中では、ドラマさながらに微生物が現れては消えるのが繰り返されています。これらの微生物のミクロフローラは、16%という高い食塩濃度下だから整然と行われるのであり、食塩濃度が12%を下回ると、いわゆる雑菌が増殖してもろみは腐ってしまいます。もろみという舞台は、この食塩のほかpH、アルコールによって役者を変えるのであり、その絶妙な配役には舌を巻かざるを得ません。

 

しょうゆは、麹菌、乳酸菌、酵母によって生まれる発酵調味料であり、色、味、香りの三拍子がそろった万能調味料です。同じ塩辛味の調味料である食塩とは異なり、微生物の発酵作用により醸成された多くの成分を含むため、非常に複雑なおいしさを持つことが可能なのです。

次回は荻野恭子さんの「世界の発酵食」をお届けします。

 

イラスト/秋葉あきこ

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