特集米と麹に生きる 新潟県長岡市 高橋さん夫妻の暮らし

麹ともろみを知り尽くした 米づくりと発酵食生活[第1回]

日本有数の米どころ新潟は、おいしい酒どころでもあります。長岡市の高橋敬(けい)さんは、先祖代々の田で米づくりをしつつ、地元の酒蔵・吉乃川の杜氏を務めてきました。春と夏は農作業に汗を流し、秋には自ら収穫した米を持って酒蔵へ。そして冬の寒仕込みを終えるとまた田畑へ戻る――その暮らしは名高い「越後杜氏」の伝統そのままです。

高橋敬さんと奥さまの澄子さん。

麹ともろみを知り尽くしてこその 細やかな米作り

 杜氏を引退した今も、顧問として吉乃川の酒づくりに携わる高橋さん。作づけする米はコシヒカリのほか新潟が誇る酒米「越淡麗」と「五百万石」が約6割を占めます。
 食べるお米と酒づくりに向くお米とでは、求められる性質が異なり、栽培技術も違ってきます。麹ともろみを知り尽くした高橋さんはさらに人一倍細やかに、素材としての米の大切さに向き合ってきました。

 写真は、高橋家が愛用する発酵調味料とそれを使った常備菜の数々。手前から 新物(左)と2年熟成(右)の酒粕。自家製みそとそれに漬けた山うど。小鉢はわさびの花の酒粕和え、グラスは甘酒。その奥は塩麹とコチュジャン、わらびのしょうゆ漬けに自家栽培の採れたて野菜。

 奥さまの澄子さんは大のお料理好き。食材は野菜と山菜を中心に、採れたてはもちろん、さまざまな常備菜、保存食が食卓を賑わせます。
 みそや塩麹は自家製、それに地元産の大豆で仕込んでもらっているしょうゆなど、調味料にこだわりが。「そういえばどれも発酵調味料ですね(笑)。この辺りではよい麹や酒粕が手に入りますので」。食卓にはそうした酒粕や手づくりの発酵調味料を使った滋味豊かな料理が並びます。

 そんな高橋さんに、しょうゆもろみを使った料理を作ってもらいました。

 写真は鶏のから揚げとうどの葉の天ぷら、奥はうどの豚肉巻。鶏肉も豚肉も、「もろみ花椒」をもみ込んで味をつけ、さわやかな香りが食欲をそそります。
 から揚げと天ぷらの衣には、新潟県産うるち米100%の米粉を使って。米粉は油を吸いにくいのでさっくりと揚がるなど、小麦粉に代わる食材として、また新たな地産地消食材としても注目されているそうです。

 「そういえば、結婚してからは風邪をひいていないな」と、照れくさそうに澄子さんの料理をほめる敬さん。杜氏として蔵に詰めるときにも、澄子さんのお弁当がその激務を支えてきました。一般的な栄養管理ばかりでなく、味覚を敏感にするとされる亜鉛が摂れるよう、利き酒をする冬場はかき料理を多めにするなどの工夫もそっと重ねてきたといいます。

 一日の仕事を終え、澄子さんの手料理を吉乃川のお酒とともにいただく夕食が、高橋家の至福の時なのです。

次回は高橋さん夫妻の「麹ともろみを知り尽くした米づくりと発酵食生活」[第2回]をお届けします。

文/吉川優子 写真/越田 昇

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