特集食のふるさとを訪ねて 最上鴨

「日本で最も美しい村」で育つ 「最上鴨」という鴨[第1回]

鴨肉はお好きですか? 健康と美容にいい成分をたっぷりと含む「ビューティー・ミート」として近年注目されていますが、その鴨肉の中でも、香り高く上品なうま味を特長とするのが今回ご紹介する「最上鴨」です。ごく限られた量しか手に入らない、そのプレミアムな鴨肉はどのようにして生まれるのでしょうか。

生産地の山形県最上地方の大蔵村に、『最上鴨生産組合』の加藤貴也さんを訪ねました。

山形県のほぼ中央に位置する最上地方に、「日本で最も美しい村」の一つ、大蔵村があります。人口およそ3400人の小さな村ですが、古くは最上川の舟運で賑わい、村内の肘折(ひじおり)温泉は開湯1200年の歴史を持つ湯治場として、また霊峰月山の登山口として栄えてきた地です。雪の多いことでも有名で、時には積雪が4m近くになり、年の3分の1以上は雪に覆われている豪雪地帯。しかしその分、豊富な雪解け水が清い湧き水となって一帯を潤してきました。また、昼夜の寒暖差が大きいため、良質の米と全国でも有数のトマトの産地としても知られています。

その大蔵村のあらたな名産品として期待されているのが、今回ご紹介する鴨肉、「最上鴨」です。

香り高く上品なうま味の「最上鴨」

それはどのような鴨なのでしょうか。そもそも鴨肉は、緻密な肉質と香りのよい脂肪という、ラムにも似た赤身の味わいが魅力。ビタミンや鉄分、不飽和脂肪酸を多く含むカラダにいい食材でもあります。

多種多様な品種がありますが、日本でもっとも多く流通している鴨肉は、「ペキン(北京ダックに使われている)」という種をもとにイギリスで改良された「チェリバレー」。肉質がきめ細かくなめらかで、和食にも使いやすいとされます。「最上鴨」もこのチェリバレー種で、さらに「最上鴨」ならではの特長といえば、鴨肉特有のクセが抑えられた上品さと、うま味が際立つ脂身が挙げられます。

のんびり育つことで美味しくなる

最上鴨の美味しさの理由、それは飼育方法にあります。まず、地鶏のような平飼いであること。思い思いに動き回り、お気に入りの場所で憩う姿に、こちらまでほっこりと癒されてしまいます。加藤さんによれば、気候のよい時季には屋外での散歩も。鴨は“右へならえ”とばかりに集団で行動するので、ちゃんと列をなして歩くのだそうです

しかし呑気そうに見える鴨も、じつはとてもデリケートで、ストレスの影響を受けやすい生きものなのだとか。そこで加藤さんは、鴨たちがストレスフリーで暮らせるよう鴨舎にさまざまな工夫を施しました。鴨の寝床ともなる床の敷料は、クッション性・吸水性・断熱性にすぐれたもみ殻やそば殻、おがくずなどを混ぜたもので、その割合は、温度・湿度の変化に応じて加減。さらに、専用に開発した堆肥をベースにすることで、衛生性を高めています。

たしかに鴨舎の中は不快な臭いがまったくせず、代わりに土のいい匂いが。鴨は消化吸収をうながすために小石を食べる習性があるので、このとき一緒に口に入る土の中の微生物に配慮しておけば、消化を助ける効果が二重に得られるのだそうです。「農業の基本は土づくりですが、鴨もそう。作物と同じで、肥沃な土でよく育つのです」。

 

給水も大事。なんと、鴨は顔を洗えないこともストレスの一因になるので、くちばしが楽に差し込める鴨専用の給水器を海外から取り寄せて設置。高さは生育状態に応じて調節できるつくりです。「人間でいえばお風呂に近い存在ですね。ろ過装置もついている優れものです」。

長期飼育と米が さらに味を高める

飼育期間も、肉の味を大きく左右することの一つです。チェリバレー種は生育が早く、孵化後50日前後で3キロを超え、55日~65日くらいで出荷されるのが普通です。しかし加藤さんの鴨は、それより長い75日が基本。日数をかけ、そのぶんうま味が濃い肉へと育てるのです。

じっくり育てる上でカギとなるのが飼料の米です。餌はいわゆる配合飼料が主で、小さいうちはまず身体をしっかりつくらせるために高いカロリーを与えますが、3週目以降は甘みが強い山形県産米を加え、大きくなるにつれてその割合を増やしてゆきます。米を食べさせると肉の甘みと香りが増し、とくに脂身ではその傾向が顕著になるのです。

 

次回は「食のふるさとを訪ねて 最上鴨」第2回をお届けします。

文/吉川優子 写真/越田 昇

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