特集米と麹に生きる 新潟県長岡市 高橋さん夫妻の暮らし

発酵食品に彩られた 豆々しい新潟の伝統食[第3回]

 米作農家であり越後杜氏でもある高橋敬(けい)さんと奥さまの澄子さんの食卓から、今回は豆を使う新潟の伝統食をご紹介します。

 新潟県の農産物といえば、まず米が挙げられますが、じつは大豆も全国有数の生産量を誇ります。冬は豪雪に覆われるこの地方において、豆類は貴重なたんぱく源として栽培されてきており、「打豆」のような保存食や、特色ある豆料理もいろいろと伝えられています。

 まず「しょうゆ赤飯」。新潟、中でも長岡では、赤飯といえばささげではなく金時豆を使います。その名の通りしょうゆ味なので(赤飯とはいえ)色は茶色ですが、仏事で出す際は塩で調味し、色は付けないそう。

 澄子さんの幼い頃の記憶では、田植えの日には大豆入りの豆ご飯を炊き、きな粉をふって朴葉に包み、神様にお供えしたといいます。田んぼで家族揃ってそれを食べてから、仕事にかかったのだとか。それはまさしく日本古来のハレの日の食でありましょう。

手前は郷土自慢のしょうゆ赤飯。奥の鉢は新潟県の正月料理・酢豆をアレンジした大豆のマリネ。

 また、しょうゆ赤飯に加えてお正月の定番になっている豆料理が「酢豆」。丸大豆もしくは打豆を戻して酢に漬け込んだもので、胃腸の疲れにも効く正月料理の名脇役です。今でこそ甘く煮た黒豆が普及しましたが「以前は正月の豆料理といえば酢豆でしたね」。

澄子さんはふだんの常備菜にも酢豆をアレンジした大豆のマリネをよくつくるそうですが、今回はこころダイニングの「さくさくしょうゆアーモンド」を使ってさらにひと工夫。ゆでた青大豆、刻んで塩でもんだ玉ねぎとセロリにサクサクしょうゆアーモンドを和え、たのしい食感とオイルのまろやかさとで、ひと味違うおいしさに仕上げました。

酢豆から大豆のマリネをアレンジし、さらにひと工夫した「大豆のサクサクしょうゆアーモンド和え」。

 
 さらに、新潟の大豆加工品で忘れてはならないのが「栃尾の油揚げ」でしょう。栃尾(今は長岡市に編入)の名物で、サイズはおよそ長さ20㎝、幅8㎝、厚みは3㎝もある大きな油揚げです。シンプルに両面を焼いただけでも、中に刻みねぎや味噌を詰めてもよし。地元ならどの居酒屋にもあって、それぞれの味を競っています。

 澄子さんはその栃尾の出身ということもあって、よくこの油揚げを使います。撮影日には、納豆と刻みねぎをベースに、ひとつには「しょうゆもろみ」を、もうひとつには「しょうゆの実」を合わせて挟んでありました。油揚げ×納豆×しょうゆもろみという大豆の三重奏は、もちろん抜群のハーモニー。ご飯のおかずにもお酒のあてにもうれしい味つけです。

おいしいお米がとれて、おいしいお酒がつくれて、そのおいしい麹や酒粕からはおいしい発酵調味料が生まれ―――そこに採れたての野菜や山菜、そして大豆が加わった高橋家の食卓は、和食文化の理想をごく自然に物語るものです。

 発酵調味料はつくる手間こそあれ、手元にあればたちまち料理の味を深めてくれるという、昔からの知恵の結晶であり、より健やかに生きるための鍵でもあります。高橋家の発酵食生活に、それを楽しむ多くのヒントをいただいたのでした。

次回はしょうゆ博士・舘博先生の「発酵の科学」です。

文/吉川優子 写真/越田 昇