特集香りふくらむ日本のうまみだし

~日本のよき生産者 発酵の技 枕崎かつお枯節~[第2回]

“世界一硬い発酵食品” 「枯節」は 微生物の発酵で風味と保存性を増す

和食のおいしさ、すこやかさの原点であるだし。その原材料である節や煮干しは、魚がたくさん獲れたときに保存食としたのが始まり。気候が温暖で湿潤な日本において、燻す・天日で干す・微生物の力で発酵させるなど、腐敗を防ぐ工夫が重ねられ、それがうま味の生成にもつながったのです。

 

前回のうるめ節に続き、今回はかつお節。こだわりの削り節を製造する京都の老舗 福島鰹株式会社の福島辰治工場長の案内で、鹿児島県枕崎市を訪ねました。

 

枕崎市といえば、生産量日本一を誇るかつお節の町。18世紀の初めにかつお節づくりが伝わったとの記録が残ります。かつおは黒潮にのって北上する回遊魚なので、日本での漁期は、まさに枕崎が位置する九州南部で始まるのです。

 

さてかつお節には、荒節と枯節という二種類があることをご存知でしょうか。どちらもおろしたかつおを煮熟し、日数をかけて焙乾(いぶしながら乾かすこと)しますが、枯節はそのあとにカビつけ作業と日干しを繰り返して仕上げます。かつお節は、だしの中でも香りとキレを担う原材料ですが、荒節はとくにそれが鮮やかで、枯節はまろやかさをおびるなど、持ち味にも変化が生まれます。

 

枯節の風味がまろやかになるのは、カビつけには微生物のはたらきによる発酵・熟成効果があるから。カビは脂肪分も分解するので、脂が浮くことなく澄んだだしがとれるのです。カビというやっかいな微生物を、保存性も味もよくする働きにした先人たちの知恵には、驚くほかありません。

左がかつお荒節、右がかつお枯節。かつお枯節は微生物の発酵作用で風味を増すほか、極限まで水分が抜けるので長期保存が可能に。断面は宝石のように輝き、「世界一硬い食品」の異名もあります。

かつお枯節が出来るまで

水揚げされたかつおがかつお枯節になるまでには、たくさんの工程が必要です。順を追ってご紹介しましょう。

1)かつおの頭を落とし、身をおろして腹側と背側に切り分けます

上は伝統的な「薩摩型」、下は「改良型」の切り方。改良型では「頭切り」「身おろし」「合断ち」と呼ばれる3種類の包丁を使いますが、薩摩型は「身おろし」包丁1本ですべて切り分けます。今は機械も使う「改良型」が主流で、薩摩型の切り方ができる職人はごくわずかしかいません。

2)かごに並べ、煮熟します。

3)骨を抜き、身を整えます。

4)薪で焙乾します。

ここで3週間ほど、かごを上下・前後入れ替えながら、じっくりと焙乾。薪は火持ちがよくてゆっくり熱が回る樫の木を使います。

 

 

これで出来上がったのが「かつお荒節」です。

5)次のカビつけの準備として、荒節の表面を削ります。

6)カビの胞子を表面に散布し、温度と湿度を保った室に入れ、カビを生やします。

7)天日に当てます。この日干とカビつけを交互に繰り返し、「かつお枯節」が出来上がります。

枯節の状態を確認するカネモ鰹節店の立石雄二さん(左)と項士朗さん。

枯節の仕上がり具合は、たたき合わせた音で判断することも。カーンと澄んだ音がすれば、中まで水分が抜けて硬くなっていることがわかるのです。

節が出来るまで、荒節は約3週間、枯節は4か月から1年以上かかります。よく西欧料理のシェフが「数時間かけてとるブイヨンに対して、日本のだしは手軽にとれるからうらやましい」と言いますが、そもそも節づくりにはこれだけの時間と手間がこめられ、日本の味を支えているのでした。

文/吉川優子 写真/越田 昇

 

 

次回は「香りふくらむ日本のうまみだし」うるめ節の産地、牛深で作ってもらった「しょうゆもろみ」料理をご紹介します。