特集だしパック「香りふくらむ日本のうまみだし」

~日本のよき生産者 天日干し 牛深うるめ節~[第1回]

さまざまな魚が「節」「煮干し」になる

和食のおいしさ、すこやかさの原点であるだし。その原材料ではかつお節と昆布が有名ですが、ほかにもさばやうるめいわしなど、さまざまな魚の節があります。

 

煮干しもポピュラーなかたくちいわしのほか、あじやあご、鯛なども。節や煮干しは、魚がたくさん獲れたときに保存食としたのが始まり。気候が温暖で湿潤な日本において、燻す・天日で干す・微生物の力で発酵させるなど、腐敗を防ぐ工夫が重ねられ、それがうま味の生成にもつながったのです。

「にごりを出さないことにこだわる」牛深のだし

上質なだしの原材料を求めて、こだわりの削り節を製造する京都の老舗 福島鰹株式会社の福島辰治工場長に、まずは熊本県の牛深を案内していただきました。

生産者の小川清彦さん(左)と、福島鰹の福島辰治工場長(右)。

牛深はいわゆる雑節*で評価が高い産地。中でもさば節とうるめ節は関西風のだしに重用されており、合わせて使うとコクとうま味がより深まります。

 

牛深では、だしににごりを出さないことをよしとします。にごりは魚の脂分が昆布のぬめりとあわさることで生じるため、まずは原料の魚に脂分が少ない時季を選ぶこと。ただし少なすぎてもうま味が不足するので、その見きわめが大事です。

*雑節=かつお節以外の節を総称する言葉。

 

原材料の質のほかに、加工方法もだしの味を左右します。福島鰹では、だしに丸みを出したいときは節をいったん削ってから粉砕しています。

美味しいうるめ節ができるまで

生産者の小川さんに、牛深の節づくりを教えていただきました。

 

一日目。頭と内臓を除いた魚(うるめは除かずにそのまま)をせいろ(平たい木製のかご。重ねて使います)に並べ、海水で煮沸し、乾燥室へ入れます。ここには魚の種類にもよりますが、12時間から2日ほど置きます。

 

次に燻製室へ。この燻製室は二階建てで、魚は二階へ入れ、一階で薪を焚いて下から燻します。1日かけてそれを終えたら、別の燻製室へとせいろを移動。こちらは燻製室の横で薪を焚き、煙と熱を風で送り込む構造です。先の二階建て燻製室は“牛深式”、後は“焼津式”と呼ばれ、前者は香りと色づけに、後者は身を締める働きがあるといいます。

“牛深式燻製室”の二階へ一次乾燥を終えた魚を入れます。

燻製室の中の様子。この床下である一階部分で薪を焚き、その煙で乾かしながら燻します。

「天日干し」のひと手間が、美味しさにつながる

こうして燻製を終えたら、今度は外気での乾燥へ。せいろを海辺の敷地に積み重ね、風を通しながらじっくりと節を乾かしてゆきます。うるめの場合、日数はおよそ2週間。乾燥の仕上げは、せいろを辺り一面に広げての天日干しにこだわります。「機械で乾燥させれば2、3日で乾くけれど、身が割れたりして味に影響しますから」と小川さん。この手間と時間が節をムラなく乾かし、コクとうま味を深めるのです。

積み重ねたせいろに風を通し、日数をかけて乾かします。

乾燥の仕上げは、天日の下にせいろを広げて。

せいろを屋外に積み上げた、あるいは天日のもとに広げた光景は、今ではすっかり珍しくなりました。それでも小川さんは、より美味しいだしがとれるようにと、日々天気と風向きを読みながら、節のチェックに余念がないのでした。

節の仕上がり具合を見る生産者の小川清彦さん。

文/吉川優子 写真/越田 昇

 

 

次回は「香りふくらむ日本のうまみだし」~日本のよき生産者 発酵の技 枕崎かつお枯節~の産地ルポをお届けします。